2013年3月8日金曜日

他人が絶対真似できない対人交渉術師

如何なる建設工事も地元住民とのトラブルは避けがたい。その理由は、マンション等の高層ビル建設では日照権阻害、変わったケースでは信仰する山が見えなくなる「眺望権」が侵害される、新幹線建設では鉄道で地域が分断されたり騒音振動被害を蒙るから絶対反対、用地買収、建物移転補償等々、例をあげるには限がない。
地元住民が鉄道開通を熱望した能登線建設でも例外ではない。
現場事務所に着任した当時、鉄道用地買収価格の不満と、自由に行き来できた田畑の道が遠回りとなった恨みが1人の住民に残っていた。
工事を担当した職員が現場近くにいるのを見つけると、怒声を浴びせながら鍬を振り上げ追い掛け回すのである。当人に誰が話しようが怒りは収まることがなかった。
そんな状況では今後の業務執行に支障があるので、本部用地担当課に善処するよう依頼した。
そしてその道のプロが派遣された。
50代のいがぐり頭のお寺の住職のような風貌の持ち主であった。岐阜工事局中部地方管内13県下のこうした難題を次々と解決した実績の持ち主でもあった。
その交渉人は工事区長から実情を聞き、すぐ住民に会いに行った。その後30分も経ったか立たないうちに帰ってきた。
交渉不調と誰もが思ったが、「話は全て終わった」と。
半信半疑ではあったが、その後その住民から鍬を振り上げられることはなかった。
物事の交渉には風貌も大切なのかなと思ったが、相手から一瞬にこの人なら心から信頼できると信じさせるノウハウが備わっているに違いない。
人生70年にしてその交渉術師の足元にも及ばない自分がここにある。

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