2013年3月15日金曜日

あちらが立てばこちらが立たず

S38年10月1日の開業が決定してからSLによる踏み固め試運転が2回にわたり実施され、それ以降の詳細工程が決定された。
ステップ1.開業予報本社上申(岐阜工事局土木課)
     2.開業監査
      (1)トンネル断面測定成果表に基づき現場確認(本社建設局)
      (2)トンネル、橋梁、擁壁等土木構造物目視確認、建築限界現場確認(本社建設局)
      (3)軌道整備測定成果表及び現場実施測定確認(本社施設局)                 
      (4)保安施設、通信、電力設備関係施設確認(本社運転局)                   
     3.列車試運転(金鉄局:開業までの1週間)
現場事務所では上記プロセスを円滑に実施するため、あらかじめ現場調査データを作成しなければならなかった。
トンネル断面測定はキロ程20mごとに行う必要があったが、トンネル箇所数が多く時間的にも人力測定では間に合わないので、最新鋭の自動測定装置を採用することになった。この機器はヌキ板で作成したフレームの四隅に発光灯を取り付け、ニコンの連続撮影ができるフォーカルプレーンシャッターと連動させるカメラとスケール基準となる三角形の標識を4か所セットしたものを取り付け、貨車の床にそのフレームを据え付けて20m走行ごとに発光させトンネル壁面に投影された光の輪を撮影し写真により断面測定を行うとするものであった。
その測定作業に携わったが、技術研究所のプロが持ち帰って果たして正確な成果表ができたのか知りようもなかった。出来形不良との指摘がなかったことから合格したことになった。
この測定方式が試行的だったのか、その後本方式の断面測定が採用されたとの話は聞かなかった。
最も大変な作業は、軌道整備測定調査票の作成であった。14kmの全長にわたり20mごとのゲージ(軌間)、水準、曲線部カント(傾斜量)、直線糸張り測定誤差、曲線の糸張り正矢誤差、5mごとの緩和曲線曲率誤差、レール20mあたりのマクラギ間隔と本数、これらをすべて実測し成果表に記入しなければならなかった。測定には集中力が欠かせなかったので精神的な疲労は相当なものがあった。このほか、建築限界測定を行った。測定は本来、おいらん列車と称する測定専用車を使用するのが通例だが、当現場では貨車にその装備を取り付けて測定することになった。
遠方に建築限界測定車・松波構内
おいらん列車の実物・金沢高架化ヤード使用開始時に使用
かんざし状に羽根が付けられていることから「おいらん列車」と称される。
本社監査が入る前に現場サイドで建築限界測定調査を開始した。構造物が何もなければ測定しないが、トンネルは入り口から出口まで羽根を付けた貨車をモーターカーで牽引しながら側壁に接触しないか注視していった。小浦地内に入ってトンネル側壁に羽根が接触してガリガリ音を立てた。
次のトンネルでも限界支障していることがわかった。この区間は路盤工事施工中に地滑りが発生した箇所であった。それにより路盤中心が海側にシフトしたため線路中心測量で現場合わせの軌道中心を設定せざるを余儀なくされた。その影響で側壁左側(山側)と線路中心が接近したためであった。
路盤工事施工時に発生した大規模地滑り
岐阜工事局50年史より
調査が終わって間もなく本社から監査員が乗り込んできた。最初は建設局所属の監査員が限界測定確認を行うことになった。限界不足と判定されると大問題になるので、請負業者に限界支障箇所の軌道中心を羽根が接触しないよう直ちに線路を「よっこ」するよう指示した。これにより羽根の接触箇所は何事もなく通過し、実施監査は異常なしと判定された。この状態は線路が不整形となっており軌道整備監査が受けれる状態ではなかった。
限界測定が終了し、軌道整備監査が施設局所属の監査員により行われることになった。業者に直ちに「よっこ」した軌道を原状復旧するよう指示した。これにより監査は何事もなく行われ合格となった。
「あちらが立てばこちらが立たず」の開業監査であった。

   
   

0 件のコメント: