2017年3月20日月曜日

人事異動

この時期になると気になるのは人事異動である。
遠くへ飛ばされたらどうしよう、嫌な上司が来たらどうしよう、頼りない部下が来たらどうしよう・・・と、悩みが尽きないのがサラリーマンの常の世界。
もしかして課長に昇進するかも、支店長になるかも・・・と、期待が膨らむのもこの時期ならではである。

現役時代の30代頃のこの時期、局長の異動が噂に上った。仕事帰りの飲み屋では、情報通の人間が主役となる。情報通曰く、「今度の局長は青函局から来るらしい。その局長は部下からとても嫌われているらしい。なんでも、決済を仰ぐ書類はことごとく突き返すらしい・・・」と噂をばらまいた。
そして4月1日、その人が局長に着任してきた。

再び仕事帰りの飲み屋。早速、情報通の出番である。「噂どおりの異動だったが、青函局では局長の転出が決定的となった時、課長、次長は万歳を叫んだらしい・・・」と。
「嫌なのが来たなぁ」と酒が急にまずくなったものである。

数か月して予定価格書など設計書類1式をかかえて、課長補佐、係長、私の3人が局長室に決済を仰ぎに出向いた。説明役は係長である。噂の局長なので係長は極度の緊張状態にあった。
十数枚の設計図面を1枚ずつ広げて恐る恐る説明を進めた。「おい君、これは何だ!」と説明を求められた係長は震え気味に説明をした。「うん、そーか」と納得したようだった。
印鑑を取り出して伺い書類の鏡に押印した。最後に予定価格書に目を通して「うん」と頷き封筒に入れ封印した。

それで決済完了なのだが、どうしたのか、いきなり係長が封印した封筒を取り出して、ハサミで封筒の頭を切った。「君は何をやってるんだ!」と局長の怒声が響き渡った。一瞬、きょとんとした顔の係長、そして自分のやったことに気付いて、「すみませんでした」と謝った。
極度の緊張状態が引き起こした珍事ではあった。

こんなこともあり、人事異動の噂話は業務に支障をきたす場合もある。
そんな局長であったが、意外な一面があった。
局長曰く、「私は自衛隊で射撃訓練をしたことがある。射撃で最も大事なことは引き金を引く要領だ。引き金は夜明け前に霜が降りるがごとく静かに引くものなのだ。」と。

その話に局長の人間性を見直すきっかけとなった。

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