助役は毎日早朝7時頃から出勤し計算機を回す音が聞こえると、あわてて寮から事務所に行かなければならないし、自分の仕事がなくても夜遅くまで上司が残業していると、それを無視して寮に入る訳にもいかなかった。請負業者が現場検査を願い出れば、日曜日であっても出勤するのが当然の習わしがあった。
職住が風光明媚な九十九湾の一角に位置するといえども、2km離れた床屋に行くのにトンネルを3本くぐらなければならなかったし、店屋は雑貨屋の1つだけ。月日を重ねていくうちに生活パターンに対するストレスが溜まっていった。
現場事務所があった場所にガソリンスタンドがH16.5.15撮影 |
さらば能登線見納め会・ホテル百楽荘にてH16.5.16撮影 |
この作業は20m間隔に軌道中心杭を設置してその杭頭に中心点を示す釘を打ち込む。また、曲線の始終点に「役杭」と呼ばれるΦ10cm長さ80cmの腐食防止が施された焼き杭を地中深く打ち込み設置した。測量機器は20″読みのトランシット、スチールテープのほか竹製で延長20mの竹チャインを使用した。作業パーティは私のほか1年先輩、ずい道手の3人であった。測量経験が皆無な私としては、先輩にその方法を聞いたり、測量マニュアル関係の書籍で勉学に没頭した。
鉄道曲線の常識であるR(曲線半径)、BTC(緩和曲線始点)、BCC(円曲線始点)、ECC(円曲線終点)、ETC(緩和曲線終点)、IP(直線交点)、IA(交角)、TCL(緩和曲線長・三次放物線)、TL(接線長)、偏埼角δ等々の用語を早急に理解し、測量を実施に移さなければならなかった。
時は氷雨のシーズン。測量作業は北風が吹きすさぶ冷たさに手が凍え、トランシットが激しく風に揺さぶられて視準点が定まらない。その対策として宿舎の雨戸を外して現場に運び、器械の横に立てて風を遮った。野帳は濡れ、携帯用の算盤をはじく手も震えがちだった。
そんな日が続いたがそのうち、田ノ浦海岸付近に進んだ。ふと水平線に目を移すと思わず吾が目を疑った。水平線上に山々の稜線が信じられないほどくっきり浮かび上がった立山連峰の雄大な姿が横たわっているではないか。悪天候中の辛い測量作業がこの光景でどれだけ心を癒されたことか。この風景に感激した思いが忘れられず、10年ほど前に立山を描いた絵画を購入し居間に飾った。
九十九湾に浮かびあがる立山連峰・旧内浦町HPより |
天候によってはこのように見える場合もある |
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