2013年4月4日木曜日

木を見て森を見ず・指揮官の能力

列車停止非常ベル騒動があって間もなく、大規模な地形調査測量が実施されることになり、測量隊が編成された。主管課から4名、線増課から8名の12名により、4人編成3パーティが横断測量を開始した。総括指揮官は主管課担当係長が当たった。
足元は急傾斜地で木立が多い悪条件の中、ハンドレベルで高低差を実測することになった。
指揮官は1断面往復測量を行い誤差をゼロになるように指示した。平坦地ならいざ知らず、ロッククライミングしながらの測量でそんな精度が必要か誰もが不思議に思い不平を漏らしたが、指揮官は頑なに自分の主張を曲げることはなかった。
そんなことで作業は困難を極め、終わるのに数日間を要した。
野帳に書き込まれたデータから図面を描くことになり、縮尺をどうするか本社に問い合わせることになった。本社はその図面を基に地滑り対策会議の資料を作成する準備を進めていた。
本社の指示は「縮尺は1/1,000とせよ」というものであった。
縦横1/1000、それを聞いてあ然とした。作業開始前にそれを聞いておけば苦労した精度の高い測量は不要なのであった。1mの高低差を図面に描くとき1mmの線にしかならない。危険を省みず崖を這い木々の枝葉を払いながらの作業は何だったのかと。
いかなる指揮官であっても部下の安全を重視し、合理的に目的を遂行する義務がある。
正に「木を見て森を見ず」の迷指揮官の采配であった。
時を経ず現場で本社幹部を交えトンネル会議が開催された。
本社幹部から意見が述べられたとき、工事区長が「若造に何がわかる!」と怒声を上げた。さすがベテランの区長である。堂々と自分の意見を述べその意見により工事が進められることになった。
その時以降、本社幹部に楯突く地方局の職員の姿を見ることはなかった。自信に満ちた名指揮官としての姿がそこにあった。
昭和45年、その人は山陽新幹線尾道トンネルの長大トンネル施工の指揮に当たった。後に国鉄最高賞の特別功労賞を受賞された。
以上、迷指揮官と名指揮官の采配ぶりの違いである。

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