2017年2月20日月曜日

強い責任感がやがて精神を蝕み過労死に至る

入社して僅か1年の女性社員が過労死したことは、労基局が調査に入って初めて明らかになった。電通のみならず、全国津々浦々のどこの事業所でも日常茶飯事に行われている長時間労働の実態だといっても過言ではない。

女性社員は一睡もしないで仕事を続けた日もあったという。
「これを〇〇日までに仕上げてもらいたい」。上司からこんな言葉が発せられたのだろう。そして、その仕事をやり遂げるためには、膨大な時間が必要と考えたからこそ懸命に取り組んだ。仕事を任された責任感が強ければ強いほど懸命になる。途中で見通しがつかなくなっても相談相手はいないのだ。自分がやらなければ誰がやる・・・、こんな状況が続くとやがて精神状態が普通でなくなってくる。
昭和47年から3年余り、私は新幹線建設の現場事務所に勤務した。その3年間の休日は年末年始と5月の連休の休暇のみ。それも毎日深夜1時か2時に帰宅し翌朝8時半には出勤するパターンが続いた。これは上司の指示ではない。そうせざるを得ない環境にあった。
国鉄職員といえば駅員、あるいは機関士、車掌が大多数だが、この人たちは超勤することはない。交代要員があるからだ。
だが、非現業の人間はその埒外にあった。
工事区といわれる現場事務所に10名ほどの職員が、それぞれ区域を分担して業務を消化していた。私の担当した工区は3工区という延長500mほどの高架橋区間と、2,300mのトンネル工区であった。上司である助役と3つ若い職員と3人のチームであった。

高架橋区間では当初の設計では基礎杭は既成PC杭であったが地質調査結果と現場が異なり、地下1,2mで転石がごろごろでくい打ちが施工不可能となった。
そのためベノト工法という場所打ち杭に変更しなければならなくなった。工事発注そのものが地元の反対運動で遅れに遅れていた。スパン割の見直しから始めなければならなかった。おまけに高架橋の幅員を40cm広くせよと本社から指示があった。ようやく杭設計、高架橋配筋図変更等が終わり着工となった。ところがケーシングチューブが転石にあたって所定の深度に達することができない。人力でケーシングチューブ内に降りて削岩機で転石を取り除かなければならなくなった。
工期がなくなるという重圧感!

加えてトンネル工事が断層破砕帯にぶち当たり導坑が埋まってしまった。迂回坑を掘って本坑にたどり着く工法に変更を余儀なくされた。
それに加えて付近住民から、「トンネル掘削の影響で渇水になった!池の鯉200匹が死んだ!田んぼに水がまわらなくなった!どうしてくれる!」と矢継ぎ早に怒鳴り込まれた。
こうなるとパニック状態。さあ、あなたならどうする?

差し迫る工期の重圧。あれもしなければ・・・、これもしなければ・・・。
そしてまたまた、インフレに伴う工事費見直し積算作業が加わった!
休日どころではないのである。
30歳前後だから体力的には問題がなかったが、長くこんな状態が続くと精神的な疲労度が大きくなる。それでも何とかしなければ・・・という責任感の衰えだけはなかった。
しかし、「こんな仕事は二度とやりたくない」と考えるようになった。これが終わったら青写真屋の注文取りを本業にしようかと真剣に考えた。

誰に相談しようもない。私の場合は何とかノイローゼになる直前で立ち直ることができた。自殺したら解放されるのだろうなぁと考えたことはあるが・・・・。
上司に「これ以上耐えられません」とは言う気がしなかった。云っても解決する訳がない。労組はどうか。「局全体が火に包まれている。君の所だけではないのだ」と言われてそれまでだ。

40代でこんな状況だった場合、完全に人生に終止符が打たれるだろうと思うと背筋が寒くなるのである。


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