新幹線加賀トンネルの側壁にクラックが発生し、その対応策で開業予定が1年半も遅れるということで、連日新聞紙上が賑わっている。今まで何故連絡がなかったか、県に対する通知が遅すぎる、1年半は長過ぎ、産業経済界に与える影響は計り知れない・・・と政府や鉄道建設・運輸施設整備支援機構を非難する記事が多い。工事費増額負担金には応じるわけには行かないという声もある。だが、新幹線建設工事の経験者として、自然的現象の予測は困難が伴うということを知って欲しいと痛切に感じた。
かつて自分は山陽新幹線建設で広島~岩国間の大野トンネルを担当していた。そこで遭遇したのは断層破砕帯であった。切羽と称する最先端の掘削面の上部から水分を含んだ土砂が吹き出したのである。危険なので作業中止、治まるまで待とうということにした。3日たち、4日たっても治まることは無かった。出るだけ出そうとなって1ヶ月経過、勢いが衰えたのを見計らってバルクヘッドというコンクリートで地山を塞いだ。これで工事は完全にストップした。
その後、いたずらに指を咥えて見ている訳にはいかないので、100m手前から別ルートで「迂回坑」を掘削して断層破砕帯を突破することを試行することになった。断層破砕帯の幅は約1mであることが分かった。そこからなお前進し予定の本坑掘削地点に到達して、所定の導坑掘削を進めた。破砕帯幅は1mだったが、本坑方向が薄い角度で破砕帯に遭遇したので難航したことになる。約3ヶ月後、ようやく破砕帯に薬液注入工を施工することに決定し、1ヶ月を要した。たった1mをクリアーするために準備を含め6ヶ月近くかかったのである。
長さ12mのボルトを1400本打ち込む計画 |
北陸本線複線化工事では頸城トンネルもこの膨張性地質で難航した。この工事も大幅に工期が遅れた。何せ自然が相手、予め何日間で完成させるという約束は不可能なこと。「トンネル工事は神様が相手」といわれ、女人禁制で入坑は許されなかった。口笛は厳禁、何も知らない若かった頃、能登線小木トンネルで口笛を吹いてこっぴどく叱られた。山を呼ぶ、要するに土砂崩壊を誘発するという意味だった。
国と施主側はただひたすらお詫びの姿 |
コンクリート覆工以外の路盤下部にもボルトは必用 |
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