2017年12月6日水曜日

奥能登の文化:あえのこと

「あえのこと」って何んのことか、それは一言で言い表せない奥能登地方の伝承文化である。言葉の意味は、あえ=おもてなし こと=まつり と解説されている。
アエノコトは、奥能登地方の珠洲、輪島、能登町、穴水町で古くから行われている新嘗の祭礼。「奥能登のあえのこと」という名称で、昭和52年重要無形民俗文化財指定され、平成21年には、ユネスコの世界無形遺産に登録された。

昨日12月5日に、その神事が奥能登各地で執り行われた。


神事の流れを紹介しよう。

苗代田に松を植え神様をお迎えする儀式
田の神様は目がご不自由。そこにおられるが如く手を取りゆっくりした動作で家までご案内する。玄関に入る時には、「少し高くなっておりますからお気をつけください」とご案内する。
アテの枝2本に宿った神様を家に導く
しばらく休憩された後にお風呂に案内する
「お風呂がわいております。ごゆっくりお入りください」とご案内する。頃合いを見てお迎えに行き、座敷にお招きする。そして口上、「お陰様で今年も豊作でした。ありがとうございました」と感謝の意を表す。
座敷に用意された御膳を勧める
田の神様はご夫婦なんだとか。
子どもの頃、親父が神妙にこの行事を執り行っていた。見えない神様がおられるが如くふるまう様子を見て、「ほんとに神様がいるがかなぁ」と半信半疑だった。

神はそのまま年を越すとされ、翌年の2月9日、主人が元の田へ送り出して鍬を田に入れることでこの神事が終了する。 
あえのことは神が一般の社会に降臨する形式の祭礼で、秋田県のなまはげ・石垣島ののマユンガナシと同形式であるが、ここでは神が目に見えぬ形で表されていることと、主人が神がいるように一人芝居を演じることが特徴なのである。

農家に代々伝わるこの伝統行事は、口頭伝承ではなく、行為伝承によって今日まで受け継がれてきた。各農家の子どもたちは、親の仕草を盗み見て、祭礼の段取りを自然と覚えていく。また、各家の奥座敷でひっそりと執り行われるため、密室性が高く、それぞれの家で独自のしきたりが生まれることとなった。なので、他家がどのような「あえのこと」を行っているのか、その詳細を知る術はない。本来はそのような閉鎖的な儀式なのだが、近年、この伝統を後世に伝えようと、希望者が祭礼を見学できるようにするなど、各所で積極的な取り組みが行われている。

暮れのお招きと春の御送り、どちらの「あえのこと」にも共通しているのが、能登近郊で獲れた山海の幸を用いて行われる“田の神様”への接待。その際、“田の神様”は御夫婦二神とされているため、料理を乗せた神膳はもとより、盃や箸など、祭礼で使う道具を二組ずつ用意するのが大切な決まり事となっている。

神膳に乗った料理は、各農家によってそれぞれ内容が異なる。大地主の家では、豪華な料理が振る舞われるし、小作農家は、できるだけ質素に神事を済ませた。代表的なお供え物は、コシヒカリの小豆ご飯、たら汁、大根と鱈の酢の物、鱈の子付けのお造り、尾頭付きの生のはちめ、甘酒など。すべての食材が能登の豊かな里山里海で獲れたもので、地物を用いて“田の神様”をもてなすのが習わしである。

私の同級生も能登町で伝承文化の保存に尽力している。
それにしても不思議な文化ではある。


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